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WES試験対策(1級) 問題と解説 No.81~85

WES試験対策(1級) 問題と解説 No.81~85

 このページの問題を一問一答形式の動画としてまとめました。復習用にご活用ください。通勤中や運動中に最適です。

【No.81】 溶接部の特性

溶接部の特性に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)低温割れの防止策として、余熱および直後熱が有効である。
(2)低温割れの主要因は、酸素である。
(3)低温割れは、約300℃以下で生じる。
(4)低温割れは、フェライト系ステンレス鋼では生じない。
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誤っている選択肢は (2)、(4)

【解説】
(1)正しい。溶接における 低温割れは、主に水素、応力、硬化組織の3要因が重なって発生します。そのため、余熱(溶接前に母材を加熱すること)や直後熱(溶接直後に加熱すること)は有効な防止策になります。余熱、直後熱は、水素の拡散促進により、溶接金属や熱影響部に溶け込んだ拡散性水素を外へ逃がしやすくします。また、冷却速度の低下による、急冷による硬化組織(マルテンサイトなど)の生成を抑制します。さらに、残留応力の緩和温度勾配を緩やかにし、溶接部に集中する引張応力を軽減します。
(2)誤り。低温割れの主要因は、水素です。
(3)正しい。低温割れ(冷却割れ、遅れ割れ)は、溶接後に溶接金属や熱影響部が約300℃以下に冷却した領域で発生しやすいとされています。この温度域では、拡散性水素がまだ鋼中に残っている、溶接部が硬化組織(マルテンサイトなど)になっている、溶接残留応力が高いといった条件が重なりやすく、割れが生じやすくなります。
(4)誤り。フェライト系ステンレス鋼でも、条件によっては水素脆化に起因する低温割れが発生することが知られています。

【No.82】 溶接部の特性

溶接部の特性に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)再熱割れは、低融点不純物の液化によって粒界に生じる。
(2)再熱割れは、溶融金属の凝固過程で溶接金属内に発生する。
(3)再熱割れは、組成パラメータΔGやPSRが大きい鋼材で発生しやすい。
(4)再熱割れは、溶接後熱処理時に発生する。
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誤っている選択肢は (1)、(2)

【解説】
(1)誤り。再熱割れは、低融点不純物の液化によって粒界に生じる」というのは正しくありません。それはむしろ液化割れ(高温割れの一種)の説明です。再熱割れは別の機構で起こります。再熱割れは、溶接後の再加熱で微細炭化物(クロム,モリブデン,バナジウム,ニオブなどの炭化物)が析出し、粒内が強化され、その結果、粒界が相対的に弱くなり、応力が粒界に集中し、応力緩和が阻害され、粒界に沿って割れが発生します。
(2)誤り。「溶融金属の凝固過程で溶接金属内に発生する割れ」は 凝固割れ(高温割れの一種) の説明であり、再熱割れとは異なります。再熱割れは、再加熱により 微細炭化物(クロムやモリブデンなど)が析出し、粒内が強化され、その結果、粒界が相対的に弱くなり、応力が集中し、リンや硫黄などの不純物元素が粒界に偏析して脆化を助長することです。
(3)正しい。、再熱割れ感受性を評価するパラメータ ΔG や PSR は、鋼材に含まれる特定の合金元素に強く依存します。これらの値が大きい鋼材ほど、再熱割れが発生しやすいとされています。ΔGは、クロム、モリブデン、バナジウムの量にが多いほど、その値が大きくなります。これらの元素が多いと粒内が強化され、粒界が相対的に弱くなり、再熱割れ感受性が高まります。PSRはクロム、モリブデン、バナジウムに加え、銅、ニオブ、チタンの量が多くなるほど、その値が大きくなります。ニオブやチタンのような強力な炭化物形成元素が多いと、粒内が硬化し、粒界に応力集中し、再熱割れが起こりやすくなります。
(4)正しい。再熱割れ(SR割れ)は、溶接後熱処理や、高温使用中に発生する代表的な割れです。再熱割れは、溶接直後ではなく、PWHT(応力除去焼なましなど)で500〜700℃程度に再加熱されたときに発生します。発生部位としては、溶接熱影響部(HAZ)の粗粒域で、特にオーステナイト粒界に沿って割れます。また、割れの形態としては、典型的な粒界割れとなります。

【No.83】 溶接部の特性

溶接部の特性に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)マグ溶接において、混合ガス(アルゴン+炭酸ガス)用の溶接ワイヤを100%炭酸ガスを用いて溶接した場合、溶接金属のケイ素とマンガン量が多くなり、静的強さが上昇する。
(2)マグ溶接において、混合ガス(アルゴン+炭酸ガス)用の溶接ワイヤを100%炭酸ガスを用いて溶接した場合、溶接金属のケイ素とマンガン量が少なくなり、静的強さが低下する。
(3)100%炭酸ガス用の溶接ワイヤを混合ガス(アルゴン+炭酸ガス)を用いて溶接した場合、溶接金属のケイ素とマンガン量が多くなり、静的強さが上昇する。
(4)100%炭酸ガス用の溶接ワイヤを混合ガス(アルゴン+炭酸ガス)を用いて溶接した場合、溶接金属のケイ素とマンガン量が少なくなり、静的強さが低下する。
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誤っている選択肢は (1)、(4)

【解説】
(1)誤り。混合ガス用ワイヤを100%炭酸ガスで使用すると、溶接金属中のSi(ケイ素)とMn(マンガン)はむしろ少なくなり、静的強さは低下します。
(2)正しい。混合ガス用ワイヤを100%炭酸ガスで使うと、ケイ素、マンガンが酸化消費されて不足し、溶接金属の静的強さが低下します。
(3)正しい。アルゴンを含む混合ガスは酸化力が弱いため、シリカ、マンガンの酸化消費が少ないです。結果として、ワイヤに多めに含まれていたシリカ、マンガンがそのまま溶接金属中に残留し、その結果、静的強さ(引張強さなど)が上昇します。
(4)誤り。100%炭酸ガス用ワイヤを混合ガスで使用すると、溶接金属中のケイ素とマンガンはむしろ多く残留し、静的強さは上昇します。ただし、その反面、靭性が低下する傾向があります。

【No.84】 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部に発生する凝固割れは、溶接金属の凝固過程で、リン、硫黄、ケイ素などがオーステナイトの柱状晶境界などに偏析することにより、低融点液膜が残留し、これに凝固にともなう収縮ひずみが作用して、最終凝固部が開口することによって発生する。
(2)オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、溶接金属中にδフェライトを適量(一般には5%以上)含有させる。
(3)オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、鋼材および溶接材料の不純物元素(リン、硫黄など)量を低減する。
(4)オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、梨型ビード形状とならない溶接条件、方法を採用する。
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誤っている選択肢は 無し

【解説】
(1)正しい。オーステナイト系ステンレス鋼の溶接部に発生する凝固割れは、溶接金属の凝固過程で、リン、硫黄、ケイ素などがオーステナイトの柱状晶境界などに偏析することにより、低融点液膜が残留し、これに凝固にともなう収縮ひずみが作用して、最終凝固部が開口することによって発生します。
(2)正しい。オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、溶接金属中にδフェライトを適量(一般には5%以上)含有させます。溶接金属に数%〜10%程度のδフェライトを含ませると、リンや硫黄の固溶度が大きいため粒界偏析を緩和できます。
(3)正しい。オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、鋼材および溶接材料の不純物元素(リン、硫黄など)量を低減します。リンや硫黄は固溶度が小さく、凝固の最終段階で柱状晶境界やデンドライト樹間に偏析します。これらは低融点の共晶化合物を形成し、粒界に薄い液膜を残します。溶接金属が凝固収縮する際、この液膜に応力が集中して粒界が開口し、 凝固割れとなります。
(4)正しい。オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、梨型ビード形状とならない溶接条件、方法を採用します。梨型ビード形は、- ビード断面が「上が細く、下が広い」西洋梨のような形になる状態で、溶融池の中央部が最後まで凝固しにくく、最終凝固部に収縮応力が集中します。その結果、柱状晶境界に残った低融点液膜が開口しやすくなり、凝固割れが発生します。

【No.85】 オーステナイト系ステンレス鋼の溶接

オーステナイト系ステンレス鋼の溶接に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)オーステナイト系ステンレス鋼溶接部に発生する凝固割れの防止策として、過大な入熱や高いパス間温度での施工を避ける。
(2)SUS321やSUS347などの安定化ステンレス鋼を使用した場合、溶接熱サイクルにより約1200℃以上に加熱された、溶接線近傍の狭い領域が、再び鋭敏化温度域に加熱されたとき、粒界腐食を生じることがある。この粒界腐食をナイフラインアタックと呼ぶ。
(3)ナイフラインアタックの防止策として、再び炭化ニオブ(NbC)や炭化チタン(TiC)が形成されるように溶接後870℃~950℃で安定加熱処理を行う。
(4)ナイフラインアタックの防止策として、低炭素・窒素添加鋼、希土類元素添加鋼(ナイフラインアタック対策鋼)を使用する。
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誤っている選択肢は 無し

【解説】
(1)正しい。過大入熱は、溶融池が大きく深くなり、梨型ビード形状になりやすく、その結果、最終凝固部が中央に集中し、収縮応力が粒界に作用して割れやすくなります。高いパス間温度では、溶接金属や熱影響部が高温のまま次のパスを重ねると、冷却が遅くなり凝固脆性温度域(BTR)に長時間滞在し、この温度域では延性が極めて低いため、収縮応力によって割れが発生しやすくなります。
(2)正しい。SUS321(チタン安定化鋼)やSUS347(ニオブ安定化鋼)といった安定化ステンレス鋼でも、特定条件下で粒界腐食が発生し、それを「ナイフラインアタック」と呼びます。SUS321はチタンTi、SUS347はニオブを添加し、炭素と結合して炭化チタンや炭化ニオブを形成することで、クロム炭化物の析出を防ぎ、粒界腐食(ウェルドディケイ)を抑制します。しかし、溶接線近傍の狭い領域は、1200℃以上に加熱されると炭化チタンや炭化ニオブが一旦固溶します。その後の冷却で、再び鋭敏化温度域(約500〜850℃)を通過すると、炭化物が十分に再析出せず、粒界にクロム炭化物が析出してクロム欠乏層が形成されます。この狭い領域が粒界腐食に対して脆弱となり、ナイフで切ったように細い帯状の腐食(ナイフラインアタック)が溶接線に沿って発生します。
(3)正しい。ナイフLINEアタックの防止策として、再び炭化ニオブや炭化チタンが形成されるように溶接後870℃~950℃で安定加熱処理を行います。
(4)正しい。炭素量を極力低減することで、Cr炭化物の析出を抑制できます。また、窒素を添加することで、固溶強化と耐食性の向上が得られます。希土類元素添加鋼は、炭化物の析出挙動が安定化し、ナイフラインアタック感受性が低減することが研究で確認されています。
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