WES試験対策(1級) 問題と解説 No.76~80
このページの問題を一問一答形式の動画としてまとめました。復習用にご活用ください。通勤中や運動中に最適です。
【No.76】 高張力鋼
高張力鋼に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)高張力鋼は焼入れ焼戻し熱処理を施した鋼材である。
(2)TMCP鋼は従来法よりもスラブ加熱温度を低く抑え、制御圧延、加速冷却を行っている。
(3)TMCP鋼は、一般の熱間圧延鋼と比較して組織の微細化により強度を高めている。
(4)TMCP鋼は、高強度化に必要な合金元素量が少なく、炭素当量が少ないため、溶接時の予熱温度を低くでき、溶接部の硬化やぜい化も抑制できる。
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誤っている選択肢は 無し
【解説】
(1)正しい。高張力鋼は焼入れ焼戻し熱処理を施した鋼材です。焼入れでは、オーステナイト化温度(約800℃以上)に加熱し、急冷することでマルテンサイトが組織化し、高硬度・高強度化します。焼戻しでは、Ac1点以下(150~700℃)で再加熱し、靭性回復・残留応力除去します。その結果、強度と靭性を両立した「高張力鋼」となります。ここで、Ac1点とは、鋼を加熱したときに「フェライト+セメンタイト」から「オーステナイト」への変態が開始する温度のことです。
(2)正しい。TMCP鋼は従来法よりもスラブ加熱温度を低く抑え、制御圧延、加速冷却を行っています。スラブ加熱温度とは、連続鋳造で得られた厚い鋼片(スラブ)を熱間圧延する前に加熱炉で昇温させる温度のことです。従来の焼ならし鋼では高温(約1200℃前後)まで加熱してから圧延するのに対し、TMCPではより低い加熱温度で開始します。これにより結晶粒の粗大化を防ぎ、微細組織を得やすくします。さらに制御圧延では、オーステナイトの再結晶挙動を利用し、未再結晶域や二相域で圧延を行います。これによりフェライト粒が微細化し、強度と靭性が向上します。加速冷却では、圧延後、水冷やミスト冷却で急速に冷却することで、フェライト・ベイナイトなどの生成を制御し、靭性と強度を両立します。
(3)正しい。(Thermo Mechanical Control Process)TMCP鋼は、一般の熱間圧延鋼と比較して組織の微細化により強度を高めています。TMCP鋼はスラブ加熱温度を低めに抑え、制御圧延でオーステナイト粒を細かくし、さらに加速冷却でフェライトやベイナイトを微細化することで、結晶粒の著しい細粒化が起こり、強度と靭性が大幅に向上します。
(4)正しい。TMCP鋼は「制御圧延+加速冷却」によって結晶粒を微細化し、析出強化を活用して高強度を得ています。そのため、従来の高張力鋼のように炭素やマンガン、クロム、モリブデンなどの合金元素を多量に添加する必要がありません。また、TMCP鋼は炭素当量やPCM(溶接割れ感受性組成)を低く抑えているため、溶接時の割れ感受性が小さいのが特徴です。
【No.77】 アーク溶接部の組織
アーク溶接部の組織に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)低炭素鋼アーク溶接熱影響部の粗粒域は、加熱温度範囲は1250℃以上で、特徴として溶融境界線に接し結晶粒が粗大化した領域で、小入熱溶接では硬化が、大入熱溶接では脆化が生じやすい。
(2)低炭素鋼アーク溶接熱影響部の混粒域は、加熱温度範囲は1100~1250℃で、特徴として粗粒域と細粒域の中間の組織で、機械的性質もほぼ中間的な特徴を有する。
(3)低炭素鋼アーク溶接熱影響部の細粒域は、加熱温度範囲は900~1100℃で、特徴として再結晶(焼きならし効果)により、結晶粒が微細化した領域で、一般にじん性が良好である。
(4)低炭素鋼アーク溶接熱影響部の二相加熱域は、加熱温度範囲は750~900℃で、特徴として層状パーライトの形態がやや変化し、徐冷の時はフェライトとパーライトの混合組織で、じん性は比較的良好であるが、急冷の時はしばしば島状マルテンサイトが生成して、じん性が低下する。
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誤っている選択肢は 無し
【解説】
(1)正しい。粗粒域は溶融境界線に接し、1250℃以上で結晶粒が粗大化する領域です。小入熱では、急冷により硬化(マルテンサイト化)が生じやすく。大入熱では、徐冷により脆化(粗大フェライト・パーライト)が生じやすいです。
(2)正しい。低炭素鋼アーク溶接熱影響部の混粒域は、加熱温度範囲は1100~1250℃で、特徴として粗粒域と細粒域の中間の組織で、機械的性質もほぼ中間的な特徴を有します。
(3)正しい。低炭素鋼アーク溶接熱影響部の細粒域は、加熱温度範囲は900~1100℃で、再結晶(焼きならし効果)で結晶粒が微細化し、他のHAZ領域に比べて、じん性が良好です。
(4)正しい。二相加熱域は 750~900℃ に加熱される領域で、部分的にオーステナイト化します。徐冷ではフェライトおよびパーライト組織でじん性は良好となります。急冷では島状マルテンサイトが生成し、じん性が低下します。したがって、施工条件(入熱・冷却速度)の管理が、この領域のじん性確保に直結します。
【No.78】 アーク溶接部の組織
アーク溶接部の組織に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)熱影響部の最高硬さに及ぼす鉄鋼の化学成分の影響を表す指標は、炭素当量と呼ばれる。
(2)炭素当量の上限を上回ると、高温割れが発生する。
(3)炭素当量の上限を上回ると、じん性が低下する。
(4)炭素当量の上限を上回ると、えん性が低下する。
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誤っている選択肢は (2)
【解説】
(1)正しい。炭素当量とは、鉄鋼中の 炭素以外の合金元素(マンガン, シリカ, クロム, モリブデン, バナジウム, ニッケルなど) の影響を、炭素量に換算して数値化したものです。「硬化しやすさ(焼入れ性)」や「溶接割れ感受性」を評価するために用いられます。炭素当量の値が大きいほど、溶接熱影響部でマルテンサイトが生成しやすく、最高硬さが高くなり、割れのリスクも増加します。
(2)誤り。炭素当量の上限を上回ると、低温割れ(特に水素割れ)」の危険性が増します。低温割れは炭素当量が高いほど発生しやすく、硬化組織・水素・拘束応力の3要素が重なることで起こります。
(3)正しい。炭素量が増えると、硬化性が高まり、マルテンサイトや上部ベイナイトなど脆い組織が生成しやすくなり、じん性が低下します。また、合金元素(マンガン, クロム, モリブデンなど)が増えると、炭素当量が上昇し、焼入れ性が増します。その結果、熱影響部が硬化しやすく、じん性低下のリスクが増大します。
(4)正しい。炭素当量(Ceq)が上限を超えると、一般的に鋼材のえん性(じん性)は低下します。 これは、炭素当量が高いほど溶接熱影響部(HAZ)が硬化しやすく、マルテンサイトや上部ベイナイトといった脆い組織が生成されやすくなるためです。
【No.79】 溶接部の特性
溶接部の特性に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)溶け込み率は、「溶け込み深さ÷余盛高さ」で定義される。
(2)溶接入熱が大きくなると、溶け込み率は大きくなる。
(3)溶接金属の組成は、溶け込み率が小さくなると溶着金属組成に近くなる。
(4)溶け込み率が大きくなると、冷却速度も大きくなる。
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誤っている選択肢は (1)、(4)
【解説】
(1)誤り。溶け込み率(希釈率)は 「溶け込み深さ÷板厚」 で定義されるのが正しいです。
(2)正しい。入熱(電流×電圧÷速度)が大きいと、母材に供給される熱量が増え、溶融池が深くなりやすくなります。そのため、溶け込み深さは増加する傾向があります。
(3)正しい。溶け込み率(希釈率)が小さいほど母材の溶け込みが少なくなり、溶接金属の組成は母材の影響を受けにくく、使用した溶加材(ワイヤや溶接棒)の組成に近づきます。
(4)誤り。溶け込み率が大きくなっても、冷却速度が必ず大きくなるとは限りません。冷却速度は主に「入熱量」「板厚」「熱伝導率」などで決まり、溶け込み率とは直接的な比例関係にはありません。
【No.80】 溶接部の特性
溶接部の特性に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)溶接入熱が大きくなると、溶接部の冷却は速くなる。
(2)余熱・パス間温度が高くなると、溶接部の冷却は速くなる。
(3)板厚が厚くなるほど、溶接部の冷却は速くなる。
(4)溶接部の冷却速度は、継手形式に依存しない。
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誤っている選択肢は (1)、(2)、(4)
【解説】
(1)誤り。入熱が大きいほど冷却は遅くなります。
(2)誤り。余熱・パス間温度が高くなると、溶接部の冷却は遅くなります。
(3)正しい。板厚が厚いほど溶接部の冷却は速くなります。母材の体積が大きく、熱容量(熱を吸収できる量)が大きくなります。溶接金属から見れば「巨大なヒートシンク」に接している状態です。板厚が厚いほど溶接部の熱が母材内部へ効率よく拡散していくため、冷却が速くなります。
(4)誤り。溶接部の冷却速度は継手形式(開先形状や拘束条件)に大きく依存します。突合せ継手(開先あり)では、母材全体に熱が拡散しやすく、冷却が速い傾向があります。隅肉継手は、母材が直角に組まれており、熱が二方向に逃げやすいため、冷却が速い傾向にあります。一方、重ね継手は、接触面が広く、熱がこもりやすいため、冷却が遅い傾向にあります。
