WES試験対策(1級) 問題と解説 No.36~40
このページの問題を一問一答形式の動画としてまとめました。復習用にご活用ください。通勤中や運動中に最適です。
【No.36】 鋼材規格
鋼材規格に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)建築構造用圧延鋼材(SN材)のC種において、板厚方向の絞り値を規定しているのは、充分に塑性変形してから破断させるためである。
(2)建築構造用圧延鋼材(SN材)のC種において、板厚方向の絞り値を規定しているのは、じん性を高めるためである。
(3)建築構造用圧延鋼材(SN材)のC種において、板厚方向の絞り値を規定しているのは、ラメラテアを防止するためである。
(4)建築構造用圧延鋼材(SN材)のC種において、板厚方向の絞り値を規定しているのは、低温割れを防止するためである。
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誤っている選択肢は (1)、(2)、(4)
【解説】
(1)誤り。JIS G 3136では、C種に対して板厚方向の特性として、絞り値15%以上などの規定があります。絞り値は、塑性変形に直接関係はありません。
(2)誤り。絞り値は、じん性に直接関係はありません。鋼材のじん性は、シャルピー吸収エネルギーで規定されます。
(3)正しい。SN材のC種は、柱脚や仕口など、三軸応力状態や拘束された溶接部に使われることが多く、板厚方向に引張応力が生じる場面があります。鋼材内部に硫化物などが多いと、板厚方向に割れやすくなります。そのため、絞り値を規定することで、板厚方向にも延性があることを保証し、割れのリスクを低減します。
(4)誤り。低温割れを防止するための規定は、シャルピー吸収エネルギーがあります。シャルピー試験は0℃で行い、低温環境でも一定以上の吸収エネルギーがあるかどうかを調べることができます。
【No.37】 熱影響部
熱影響部に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、溶融境界近傍では、硬化やぜい化が生じることがある。その理由は、溶融線近傍の約950℃以上に加熱された領域では、結晶粒が著しく粗大となり、オーステナイトや上部ベントナイトなどの焼入効果組織が生じるためである。
(2)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、細粒域は900~1100℃程度に加熱された領域で、オーステナイト粒の成長が十分に起こっていない領域である。
(3)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、細粒域は小さなオーステナイト粒の状態から冷却中にフェライトとパーライトに変態し、結晶粒が微細になる。
(4)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、母材境界近傍は、部分変態域(二相加熱域)と呼ばれる。
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誤っている選択肢は (1)
【解説】
(1)誤り。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、溶融境界近傍では、硬化やぜい化が生じることがある理由は、溶融線近傍の約1250℃以上に加熱された領域では、結晶粒が著しく粗大となり、マルテンサイトや上部ベントナイトなどの焼入効果組織が生じるためです。
(2)正しい。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、細粒域は900~1100℃程度に加熱された領域で、オーステナイト粒の成長が十分に起こっていない領域です。
(3)正しい。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、細粒域は小さなオーステナイト粒の状態から冷却中にフェライトとパーライトに変態し、結晶粒が微細になります。
(4)正しい。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、母材境界近傍は、部分変態域(二相加熱域)と呼ばれます。
【No.38】 熱影響部
熱影響部に関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、750~900℃程度のフェライトとマルテンサイト二相域に加熱された領域である。
(2)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、徐々に冷却するとフェライトとパーライト組織となってじん性が良好になる。
(3)炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、急冷するとしばしば島状マルテンサイトが生成して、じん性が低下する。
(4)炭素鋼溶接部の低温割れ発生に及ぼす要因として、溶接部の硬化組織が挙げられる。
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誤っている選択肢は (1)
【解説】
(1)誤り。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、750~900℃程度のフェライトとオーステナイト二相域に加熱された領域です。
(2)正しい。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、徐々に冷却するとフェライトとパーライト組織となってじん性が良好になります。
(3)正しい。炭素鋼アーク溶接熱影響部における、部分変態域(二相加熱域)は、急冷するとしばしば島状マルテンサイトが生成して、じん性が低下します。
(4)正しい。低温割れ(遅れ割れ)は、溶接完了後に溶接部が約300℃以下まで冷却されたのち、数分から数日以内に発生する割れ現象です。
炭素鋼や高張力鋼、低合金鋼などで起こりやすく、溶接金属や熱影響部で形成されるマルテンサイトやベイナイトなどの硬化組織が強いほど、割れに対する感受性が高まり、ひずみ集中部での亀裂発生を促進します。
炭素鋼や高張力鋼、低合金鋼などで起こりやすく、溶接金属や熱影響部で形成されるマルテンサイトやベイナイトなどの硬化組織が強いほど、割れに対する感受性が高まり、ひずみ集中部での亀裂発生を促進します。
【No.39】 低温割れ
低温割れに関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)炭素鋼溶接部の低温割れ発生に及ぼす要因として、溶接部の拡散性水素が挙げられる。
(2)炭素鋼溶接部の低温割れ発生に及ぼす要因として、溶接部の引張応力(拘束応力)が挙げられる。
(3)溶接割れ感受性組成(PCM値)は、溶接時における低温割れ(遅延割れ)発生に対する母材や溶接金属の化学成分の影響を総合的に数値で評価する指標である。
(4)溶接割れ感受性指数は、鋼材や溶接条件が割れを起こしやすいかどうかを数値で評価する指標で、特に炭素鋼や高張力鋼の低温割れ(遅れ割れ)防止のために用いられる。
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誤っている選択肢は 無し
【解説】
(1)正しい。フラックス中の水分や溶接被覆材、母材表面の油脂、水蒸気などがアーク熱で分解し、拡散性水素となって溶融池に溶け込みます。溶接後の冷却過程で母材への熱伝導や相変態が進むにつれ、溶接金属中を拡散した水素原子は微小空隙や界面にトラップされ、一点に局所的に濃縮されます。溶接完了後、約2~48時間の間に水素拡散と集中が進んだ結果として割れが顕在化します。
(2)正しい。溶接部に加わる引張応力(拘束応力)は、炭素鋼溶接部の低温割れ発生における三大要因のひとつです。溶融金属の冷却収縮を、母材が機械的に制約し、部分的な塑性変形と拘束により、溶接金属や熱影響部に高い引張残留応力が集中します。
(3)正しい。溶接割れ感受性組成(PCM値)は、溶接時における低温割れ(遅延割れ)発生に対する母材や溶接金属の化学成分の影響を総合的に数値で評価する指標です。PCM値が高いほど鋼の硬化性が増し、マルテンサイト生成傾向が強まるため、拡散性水素や残留応力と相まって割れを起こしやすくなります。
(4)正しい。溶接割れ感受性指数は、溶接割れ感受性組成、拡散性水素量 と板厚 による拘束度を組み合わせることで、低温割れの3要因を定量的に評価します。
【No.40】 低温割れ
低温割れに関する問題で、誤っているものはどれか。
(1)余熱を行うと低温割れが防止できる理由は、低温割れの3要因のひとつである、拘束度を低減させるためである。
(2)オーステナイト系ステンレス鋼の溶接における凝固割れは、凝固過程において、リンや硫黄などの融点降下元素が、凝固時のデンドライト樹間やオーステナイト粒界に偏析し、膜状の融液が残存する。その残留液膜に凝固収縮ひずみが加わって発生する。
(3)オーステナイト系ステンレス鋼の溶接において、溶接金属に発生する凝固割れを助長する主な元素として、クロムやモリブデンが挙げられる。
(4)オーステナイト系ステンレス鋼の溶接において、溶接金属に数%のδフェライトを含ませるように溶接材料を選定すると、凝固割れを軽減または防止できる。
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誤っている選択肢は (1)、(3)
【解説】
(1)誤り。余熱を行うと低温割れが防止できる理由は、余熱により溶接後の冷却速度が遅くなり、大気中に水素が放出されて溶接部の残留拡散性水素が減少するとともに、硬化組織の生成が抑制されるためです。なお。余熱は拘束度にほとんど影響しません。
(2)正しい。オーステナイト系ステンレス鋼は、主にオーステナイト(面心立方格子をもつ結晶相)からなるステンレス鋼で、優れた延性(伸びやすさ)と耐食性を特徴としています。溶接で溶融金属が固まるときには、元々少量含まれるリンや硫黄などの融点降下元素が、結晶が成長する際の「デンドライト樹枝」(樹枝状に伸びる小さな結晶)の周りや、「オーステナイト粒界」(結晶粒の境目)に引き寄せられるように集まる現象が起きます。この現象を「偏析」と呼びます。偏析によって粒界付近に集まったリンや硫黄は、純粋な鉄やクロムなどよりも低い温度で最後まで液体のまま残り、粒界に薄い「膜状の融液」を形成します。その後、金属が液体から固体へ変わる「凝固過程」では、物質が固まるときに体積が小さくなる「凝固収縮」が発生します。凝固収縮による内部ひずみ(収縮ひずみ)が、膜状の融液に強い引っ張り応力を加えると、液膜は十分な強度をもたないため、やがて耐えきれずに亀裂が入ります。これがオーステナイト系ステンレス鋼の溶接部で見られる「凝固割れ」です。
(3)誤り。クロムやモリブデンは融点が高く、分配係数(固相に取り込まれる濃度と液相に残る濃度の比率)も1に近いため、凝固時にデンドライト樹枝間や粒界に偏析しにくいです。偏析が起こらないと、低融点の液膜が残らず、膜状液体が引っ張り応力に耐えられず割れるという凝固割れのメカニズムが成立しません。一方、リンや硫黄などの融点降下元素は分配係数が小さく、凝固の最後に樹枝間や粒界へ濃集して低融点の薄い液膜をつくります。そこに凝固収縮ひずみが生じることで、亀裂が発生しやすくなるため、これらが凝固割れの主因とされています。
(4)正しい。δフェライトは、オーステナイト系ステンレス鋼の高温領域で形成される「体心立方構造」をもつ鉄の結晶相です。室温では存在せず、約1400℃以上の温度帯で安定化します。δフェライトは、溶融金属が固まる際の収縮応力を分散し、凝固割れを減らす効果があります。そのため多くのステンレス溶接ワイヤやフィラー金属には、適量のδフェライト相が設計されています。一方、δフェライトが多すぎると靭性が低下し、脆くなるおそれがあります。適度な量(およそ3~8%)であれば、靭性と耐割れ性のバランスが良好になります。