【呼び強度と実際の強度】想像より安全側のコンクリート強度

建築士

「今日は何のトラブルもなく計画通りにコンクリートが打てるかな?」
コンクリートの打設担当をすると、アドレナリンが出てくる感じがしました。

コンクリート打ちでは、問題が起こると、コンクリートが固まってしまったり、すでにプラントで練られているコンクリートはどうするかといったことをいろいろ考えながら手を打たなければなりません。

一方で、躯体の品質確保と作業の安全性を確保することは当然なこととして、コンクリート打ちを完了させなければなりません。

前置きはさておき、今回は、コンクリートの呼び強度について、記事を書いていきます。

コンクリートの呼び強度?

コンクリートを発注するとき、設計基準強度(Fc)と呼び強度(Fq+S値)に間違いがないかを確認します。

設計基準強度は、構造設計上想定している強度のことで、実際に打設したコンクリートの圧縮強度が、この強度を超えている必要があります。

 

呼び強度は、コンクリート強度のばらつきを考慮して、設計基準強度よりも強度の高いコンクリートとするための、統計的な考え方を採用しています。

コンクリート強度のばらつきは正規分布に従う

既往の研究によると、コンクリートを全く同じ配合で練った場合、その強度のばらつきは正規分布に従うということが分かっています。また、コンクリートが固まるまでの気温や湿度といった環境にも強度は影響されるということが分かっています。

上の図のセンターラインの0がコンクリートの平均強度だと思ってください。
コンクリート強度のばらつきは、標準正規分布に従います。

この場合の標準偏差(σ)の具体的な意味合いを次に示します。

  • ±σ(σ区間) :68.3%
  • ±2σ(2σ区間):95.4%
  • ±3σ(3σ区間):99.7%

設計基準強度=発注強度の場合はどうなるか

通常は呼び強度=発注強度ですが、設計基準強度のままコンクリートを発注するとどうなるか・・・。

設計基準強度を超える確率が50%となり、圧縮試験を行うと2回に1回は設計基準強度を超えないコンクリートとなってしまうということになります。

これではまずいですよね。設計基準強度を50%の確率で超えるようなコンクリートではなく、ほとんど100%の確率で超えてくれないと設計上困ってしまいます。

JASS5の規定

構造体強度補正値【mSn値】について

Fm=Fq+mSn(N/mm2)

Fm:コンクリートの調合管理強度(N/mm2)
Fq:コンクリートの品質基準強度(N/mm2)
mSn:標準養生した供試体の材齢m日における圧縮強度と構造体コンクリートのn日における圧縮強度の差による構造体強度補正値(N/mm2)

調合強度は、以下の式を満足するように定めます。

F≧Fm+1.73σ(N/mm2)
(F≧0.85Fm+3σ(N/mm2))

F:コンクリートの調合強度(N/mm2)
Fm:コンクリートの調合管理強度(N/mm2)
σ:使用するコンクリートの圧縮強度の標準偏差(N/mm2)

JASS5ではこのように、コンクリート強度のばらつきを考慮した呼び強度とするように規定されています。細かい内容については別の記事で紹介しているので参考にしてください。

実際に発注したコンクリートはどれくらいの強度なの?

基本的に、コンクリートプラントはJASS5の規定を満足させるだけではなく、もっと強度の高いコンクリートとすることで、設計基準強度を超える確率が限りなく100%に近いコンクリートの配合としている場合が多いと感じます。(筆者の感想です)

コンクリートプラントは、過去のデータをもとに、プラントが出荷する時の呼び強度に対する実際の強度の平均値と標準偏差を把握しています。もし、現場のコンクリート担当になった場合は、プラントに直接問い合わせてみてください。

発注強度と実際強度の比較

例えば、呼び強度が24N/mm2のコンクリートをAプラントで練った場合、過去の実績から平均強度が35.0N/mm2標準偏差σが1.57N/mm2だったとします。

呼び強度=品質基準強度+S値 という考え方があります。

ざっくりいうと

品質基準強度はコンクリートは91日(実際はもっと)まで強度が上がり続けますが、28日で設計基準強度を超えるようなコンクリートにしましょう。

S値は、さらに季節によって強度の出方が変わるのでS値を加えて安全側としましょう。という感じです。

呼び強度が24N/mm2のコンクリートの品質基準強度は21または18N/mm2ということです。

設計基準強度で考えるとさらに強度が下がりますが、例題の平均強度が35.0N/mm2で標準偏差σ1.57N/mm2の場合、おそらくS値を考慮しないでも問題ないくらい安全なコンクリートが練られているはずです。

実際に計算してみよう

JASS5の式を満たすコンクリートの呼び強度として、どれくらいに設定できるかを検証してみましょう。

平均強度が35.0N/mm2で標準偏差σ1.57N/mm2なので、

F≧Fm+1.73σ(N/mm2)をまず考えると

F=35、σ=1.57を代入します。
35≧Fm+2.71
Fm≦35-2.71
Fm≦32.3

F≧0.85Fm+3σ(N/mm2)を考えます。

F=35、σ=1.57を代入します。

35≧0.85Fm+4.71
0.85Fm≦35-4.71
Fm≦35.6

小さいほうの値を採用して、32.3(N/mm2)以下の呼び強度であれば、このコンクリートはJASS5の規定を満足することになります。

呼び強度24(N/mm2)としている場合でも、プラントの実績を考慮すると実はかなりの安全率が掛けられていることが分かりました。

以上、コンクリート強度について考察してみました。

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